岡山地方裁判所 昭和63年(ワ)679号 判決 1990年5月31日
原告
中尾ゆかり
被告
小倉尚
主文
1 被告は、原告に対し、金一五八万一二七八円及びうち金一四四万一二七八円に対する昭和六三年一〇月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
5 ただし、被告が金八〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一七五万一四二〇円及びうち金一六〇万一四二〇円に対する昭和六三年一〇月九日から支払すみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
次の事故(以下、本件事故という)が発生した。
(一) 日時 昭和六三年四月八日午後一一時三〇分ごろ
(二) 場所 岡山市郡二五一五番地金甲山下り一・四キロポスト
(三) 加害車 普通乗用自動車(六二年式トヨタカローラAE九二型)
(四) 右運転者 被告
(五) 被害車 普通乗用自動車(五八年式日産スカイラインRSX)
(六) 右運転者 原告
(七) 態様 加害車と被害車が衝突したものである。
2 責任原因(被告の過失)
被告は、原告の前方を進行中、本件事故現場にさしかかる直前、スピードを出し過ぎていたため、緩い右カーブを曲がり切れず、その進行方向に向かつて左側のガードレールに接触し、ガードレールの上を左に大きく飛び上がつて反転し(原告の方向に自車の前部を向け)、原告の進路前方に自車の前部から突つ込むような形で落下し、加害車の後方からきていた被害車とほぼ正面衝突をしたものである。
3 損害
本件事故により原告は次の損害を受けた。
(一) 修繕費 一四〇万一四二〇円
(二) 被害車の評価損 二〇万円
(三) 弁護士費用 一五万円
よつて、原告は、被告に対し、民法七〇九条に基づき、右損害賠償金一七五万一四二〇円とそのうち右3(一)、(二)の合計一六〇万一四二〇円に対する本件事故発生日ののちである昭和六三年一〇月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、被告が原告の前方を進行していたこと、加害車が本件事故現場に差しかかる直前スピードを出し過ぎていたため、緩い右カーブを曲がり切れず、その進行方向に向かつて左側のガードレールに接触(衝突)し、加害車が反転したことは認める。
加害車はガードレールに衝突し、大破して、右反転後停止していたのであり、その後時間の経過があつたのち、原告の後気過失により被害車が加害車に追突したものであるから、加害車の右反転、停止と本件事故との間には因果関係がない。
3 同3の事実は争う。
三 抗弁
1 期待可能性の不存在
被告に過失があるとすれば、それは加害車が路上に停止していることを表示する措置をとらなかつたことであるが、被告及び同乗者はガードレールに衝突したことによる負傷とシヨツクのため、車外に出る余裕がなかつたのであるから、本件事故の回避措置をとることを被告に期待することは不可能であつた。
2 過失相殺
本件事故は、原告が前方を十分注視せず、制限速度(時速四〇キロメートル)を超過する速度で運転していた過失により、加害車の発見、回避が遅れ、発生したものである。
四 抗弁にたいする認否
抗弁1、2の事実はいずれも否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1の事実及び同2の事実のうち、被告が原告の前方を進行していたこと、加害車が本件事故現場に差しかかる直前スピードを出し過ぎていたため、緩い右カーブを曲がり切れず、その進行方向に向かつて左側のガードレールに接触(衝突)し、加害車が反転したことは当事者間に争いがない。
二 現本の存在及び成立に争いのない甲第三号証の一ないし六並びに原告本人尋問の結果によれば、被害車の前方を走行していた加害車がガードレールに衝突し、被害車の方へ反転するのを原告が目撃し、原告は急制動の措置をとり、ハンドルを右に転把したが及ばず、被害車が加害車に衝突したものであることが認められ、この事実と前記争いのない事実によれば、本件事故現場において適切なハンドル操作ができないほどの速度で加害車を運転していた被告の過失と本件事故との間には相当因果関係があることは明らかであり、被告が主張するような内容の期待可能性はその前提事実が右認定事実と異なるのであるから、右主張自体失当である。
三 損害につき検討する。
1 修繕費 一四〇万一四二〇円
証人池葉須恒美の証言とこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし四、撮影者、撮影年月日、被写体につき争いのない乙第四号証の五ないし七によれば、本件事故により、被害車が破損し、その修理に要する費用は一四〇万一四二〇円であることが認められる。
確かに、証人池葉須恒美の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証の一ないし三によれば、池葉須恒美が作成し、被告側に渡した被害車の修理費用の見積書に書かれている見積額は九五万八九八〇円であることが認められるが、同時に、右見積書の作成日は本件事故の三日後であつて、被害車の修理箇所及び修理を要する程度について遺漏がなかつたことはいいきれないこと、また右見積では純正部品以外の取付部品のものを除く見積には、部品の交換を要しないものを含め、一切の工賃が含まれていないことが認められ、他方前出甲第四号証の一ないし四によれば、被害車を修理した池葉須恒美が昭和六三年五月三〇日に作成した見積書には右工賃が記載されていることが認められ、これと前出乙第二号証の一ないし三とを比較してみると、交換部品の項目には大きな差はないことが認められるから、右乙第二号証の一ないし三の見積書をもつて、前記修理費用の額の認定を左右するものとはいえない。
2 被害車の評価損 二〇万円
成立に争いのない乙第三号証の一〇及び証人池葉須恒美の証言によれば、右修理後の被害車の時価は一八八万円であり、被害車はいわゆる人気車種であるため中古車であつてもあまり減価がないことが認められ、これと前記修理費用とを総合すると、本件事故による被害車の評価損は二〇万円(右時価の約一〇・六パーセント、右修理費用の約一五パーセント)とするのが相当である。
四 過失相殺につき検討する。
前記争いがないように、原告は、午後一一時三〇分ごろ、先行する被害運転の加害車の後を追従して走行していたものであるが、前出甲第三号証の一ないし六及び原告本人尋問の結果によれば、加害車と被害車が走つていた道路は、金甲山のドライブウエイの下り車線で、照明のないこと、本件事故現場付近は下り坂であること、本件事故現場にさしかかる約七三メートル手前で道路は下り方向に向かつて左に曲がり、その後緩く右に曲がつて(緩いS字カーブ)本件事故現場に至ること、下つてきて右の左カーブに達するまでは本件事故現場は見えないこと、右道路の制限速度は時速四〇キロメートルであること、原告はこのような道路を時速六〇キロメートル内外で加害車の後方約四〇メートル(時速六〇キロメートルで二・四秒の距離、右制限速度で三・六秒の距離)を追従して被害車を走らせていて、先述の左カーブを過ぎてややあつて加害車が左のガードレールに衝突し、原告の方に反転するのを見て、急制動をかけ、ハンドルを右に転把したが及ばず加害車と衝突したことが認められる。
右事実によれば、原告が急制動をかけるまでに加害車との距離は縮まつていたものということができ、アスフアルトなどの舗装道路における普通乗用車の停止距離(空走距離を含む)は時速六〇キロメートルでは約三二メートル、時速五〇キロメートルでは約二五メートルとされていることに鑑みると、原告は本件事故現場付近の道路では、制限速度を守ることはもとより、カーブのある道路及び見通し、時間、照明がないといつた状況から、安全な速度と先行車との十分な車間距離を保持して被害車を運転する義務があつたところ、右認定の速度と車間距離で運転した過失があり、これと被告の前記過失により本件事故が発生したものということができる。
そして、右原告の過失の内容及び程度と被告のそれらを比較考慮すると、前認定の損害からその一割を減額するのが相当である。
原告が本件事故により受けた前認定の被害車の損害から右減額をすると一四四万一二七八円となる。
五 弁護士費用についてみるに、弁論の全趣旨によれば、原告は被告に対し本件損害賠償を求めるためには本件訴を提起する以外に方法がなく、原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任し、相当の報酬を支払うことを約したことが認められ、本件訴訟の審理の経過、前認定の損害額その他本件に現れた一切の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は一四万円とするのが相当である。
六 よつて、原告の本訴請求は、被告に対し損害賠償金一五八万一二七八円とこれから右弁護士費用一四万円を控除した一四四万一二七八円に対する本件事故発生日ののちである昭和六三年一〇月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、仮執行免脱宣言につき同条三項をそれぞれ適用して、注文とおり判決する。
(裁判官 岩谷憲一)